来 歴


ことばの種子


日々にはびこる
疫病のようなことばなら
大木のユズリハの
いちばん古い枝にくれてやる
夏の間からやみなしに
黄色い葉を揺すり落としている
ボタンザクラのおしゃべりを
封じこめる手を教えてくれないか

ツバキの種子のように
きっぱりと今は口をつぐんでいるもの
あれば確かに豊かさだと
気がつく人は誰と誰だろう
真実はいつもさりげなく
あそこの林にも
ここの茂みにも存在しているのに
つくりものの垣根の中では
すべてのドラマが
一つ色に塗りかえられて
何を選び出したらいいのか難しい

だから固いからの中で
育つだけ育つと
定められた法則にしたがって
できるだけ遠くへはじけて飛ぶ
飛ぶだけでなくて
手もとどかぬ空の上
土の中へ身を隠してしまうのだ
空のはるかな場所
土の中の見えない世界には
無数のことばの種子たちが
彼らのやり方で生きている

もののあやめも見分けがたい夜
つぶてのように
わたしの胸をめがけて落ちてくるもの
ことばの種子を培う
優しい土壌になれないわたしを
手きびしくせきたてるもの
暗い空とその次の空のつなぎめに
たった一つのことばが光るのを
しかしわたしの悪い目はまだ見つけない

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